低亜鉛血症 亜鉛の働き

亜鉛とは?
亜鉛(Zn)は、私たちの生活の中では500円玉や乾電池の材料として使われている金属ですが、鉄(Fe)と同じように、人間の身体にとって欠かせない「必須ミネラル」の一つでもあります。
体内に存在する亜鉛の量は成人で1.5g~3gとわずかで、必要とされる量も少ないのですが、身体のさまざまな仕組みの中で多様な働きをしていることがわかっている、重要なミネラルです。
亜鉛は身体の中で、どのような
働きを
しているのでしょうか?
亜鉛の働き(1) 酵素の成分になる、酵素を働かせる
食物を食べ、栄養素として吸収し、エネルギーに変えて身体を動かすため、体内では常にさまざまな化学反応が起きています。その化学反応には酵素が必要で、体内ではたくさんの酵素が作られ、働いています。このうち300種類以上の酵素に亜鉛が必要とされています。亜鉛は、酵素の構造を安定させたり酵素の働きを活性化したりしています。
亜鉛の働き(2) 情報を伝達する
人間の身体は数十兆の細胞が集まってできています。古い細胞が死んだり、新しい細胞が出来たりして、常に必要な数を維持し正確に活動できるような仕組みになっています。この仕組みを動かすために細胞間や細胞の内部ではさまざまな情報が伝達されているのです。亜鉛は、この細胞における情報伝達の役割も担っています。
亜鉛が関与する身体の機能は、全身におよび、次のようにとても多彩です。
味覚の維持
免疫力を保つ
生殖機能を保つ
健康な皮膚を保ち、脱毛を防ぐ
子どもの身長の伸び
精神・行動への影響
肝臓の働きを保つ
亜鉛が不足すると、これらの働きに何らかの不調が生じ、体調不良につながります。(「亜鉛が不足すると」参照)
亜鉛は1日にどれくらい必要?
「日本人の食事摂取基準(2015年版)」(厚生労働省)によると、推奨される1日の亜鉛摂取量は、成人男性で10mg、成人女性で8mg(妊婦は+2mg、授乳婦は+3mg)です。
一方、「国民健康・栄養調査報告(平成27年3月)」(厚生労働省)によると、男女ともに20歳代以降は、実際の摂取量が推奨量に比べて少なく、亜鉛が不足気味であることがわかっています。特に、妊婦・授乳婦の摂取量は推奨量に比べて著しく少なくなっています。
日本人の亜鉛の推奨量と実際の摂取量
(1日あたり)
男性 | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
年齢(歳) | 1~6 | 7~14 | 15~19 | 20~29 | 30~39 | 40~49 | 50~59 | 60~69 | 70以上 |
調査人数 | 197 | 314 | 175 | 273 | 368 | 456 | 455 | 638 | 808 |
推奨量 (mg/日) |
3~5 | 5~9 | 10 | 10 | 10 | 10 | 10 | 10 | 9 |
平均摂取量 (mg/日) |
5.4 | 9.2 | 10.7 | 9.3 | 9.2 | 8.9 | 8.8 | 9.0 | 8.7 |
女性 | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
年齢(歳) | 1~6 | 7~14 | 15~19 | 20~29 | 30~39 | 40~49 | 50~59 | 60~69 | 70以上 |
調査人数 | 117 | 295 | 162 | 284 | 420 | 533 | 506 | 770 | 970 |
推奨量 (mg/日) |
3~5 | 5~8 | 8 | 8 | 8 | 8 | 8 | 8 | 7 |
平均摂取量 (mg/日) |
5.2 | 8.0 | 8.1 | 7.0 | 7.1 | 6.9 | 7.3 | 7.6 | 7.1 |
妊婦および 授乳婦 |
妊婦 | 授乳婦 |
---|---|---|
調査人数 | 116 | 252 |
推奨量 (mg/日) |
10 | 11 |
平均摂取量 (mg/日) |
7.6 | 8.2 |
- ※亜鉛の摂取量は「健康・栄養調査報告 平成27年版」および「同平成19~23年特別集計 妊婦・授乳婦データ」より引用(平成19~23年特別集計)。
- ※亜鉛の推奨量は、「日本人の食事摂取基準2015年版」より引用
身体の中の亜鉛
亜鉛はヒトに必須なミネラルですが、摂りすぎると身体に悪い影響を及ぼすことがあります。日本人の場合、バランスのとれた食事を必要量摂っていれば、亜鉛が少なすぎたり多すぎたりすることはありません。亜鉛の量が過剰になる例に、亜鉛メッキ作業での事故があります。これはメッキ作業において霧状の酸化亜鉛を吸入することによる中毒で、一種の職業病です。亜鉛吸入によりインフルエンザ様の悪寒・発熱、咳、頭痛、疲労感、発汗等の症状が生じますが数時間で回復します。このほか、亜鉛過剰摂取による症状としては、吐き気やおう吐、腹痛等の消化器障害、立ちくらみ(銅又は鉄欠乏による貧血)や歩きにくい(神経障害)等があります。

しかし、人間の体内では亜鉛が過剰にならないよう調節システムが働いています。
口から入った亜鉛は、胃ではほとんど吸収されず、十二指腸や空腸で吸収されますが、吸収率は20~40%ほどです。吸収された亜鉛は肝臓に運ばれ、その後全身に分布します。亜鉛が最も多いのは筋肉(60%)で、次に骨(20~30%)、皮膚・毛髪(8%)、肝臓(4~6%)、消化管・膵臓(2.8%)、脾臓(1.6%)という順になります。
十二指腸や空腸で吸収された亜鉛のほとんどは糞便を介して体外へ排出されます(尿や汗からも微量が排泄されます)。
亜鉛は、人間の身体内で作ることができない必須成分です。体内で使われて消失した分を補充しなければなりません。そのため、毎日、食事等で亜鉛を体内に取り込む必要があります。
帝京平成大学健康メディカル学部健康栄養学科 学科長・教授
児玉浩子先生 監修