リンパ管疾患 リンパ管疾患について
リンパ管の役割や発生について
リンパ系はリンパ管、リンパ節などの組織で構成されており、リンパ管の内部には、リンパ液という液体が流れています。全身をめぐる血液の一部は、全身の細い血管(毛細血管)から染み出して体の隅々(末梢組織)まで酸素や栄養素を届けた後に、一部は再び血管に戻ります。戻らなかった水分(組織液)やさまざまな老廃物などは毛細リンパ管に入り、リンパ液となります。
毛細リンパ管は集まってリンパ管となり、最終的に静脈に流入します。これがリンパ管のネットワークです。きれいな血液を届ける血管を上水道に例えるなら、リンパ管は老廃物を集めて運ぶ下水道にあたる器官といえる存在です。またリンパ管の途中にあるリンパ節※1は浄水場のように、リンパ液を浄化するはたらきがあります。
われわれ人間を含む哺乳類では、リンパ管ができる際に体の中心を縦に走っている非常に大きな静脈が関係していることが分かっています。胎児が成長する際、この静脈を構成している細胞の一部に、PROX1という遺伝子が発現すると、この細胞が血管壁から飛び出して血管の周囲に寄り集まり、血管と並行してリンパ管を形成します。胎児の体が作られる時期(胎生期)には、そうしたリンパ管を形成する細胞が集合し、まず最初に大きなリンパ嚢※2(原始リンパ嚢)ができると考えられています。これが胎児の成長に伴い末梢に広がって全身のリンパ管のネットワークが形成されていきます。
最近では多くのリンパ管疾患において、こうした胎生期にリンパ管ができる際、異常が生じている可能性が示唆されています。よく知られているリンパ管腫も、リンパ管が発生してネットワークが形成される過程で生じた形成異常だということが分かってきました。今ではリンパ管奇形、特にリンパ管が異常に膨らんで袋状になることから嚢胞状のリンパ管奇形といわれることが多くなっています。
形成異常に起因するリンパ管疾患は現在リンパ管腫(リンパ管奇形)、リンパ管腫症、ゴーハム病、リンパ管拡張症、原発性(先天性)リンパ浮腫などに分類されます。リンパ管奇形を中心として非常に病態が似た疾患であることから、一部の患者さんには、どうしてもはっきりと病名をつけられないことがあります。
- ※1 リンパ節はリンパ液中の異物や細菌を除いたり、抗体産生等により生体の防御作用を行ったりする器官です
- ※2 嚢は袋状のこと
慶應義塾大学 医学部 外科学教室 小児外科
藤野明浩先生 監修