縁取り空胞を伴う 遠位型ミオパチー(GNEミオパチー) 日常生活の注意点とリハビリについて

リハビリテーション

①ストレッチ

遠位型ミオパチーは特に手足の先や下腿など体から遠い所(遠位)の筋力が低下するため、手首・指先・肩甲骨周囲・足首・膝裏の筋肉が硬くなりやすいとされています。そのため、関節が硬くなってしまうこと(関節拘縮)による二次的な動きづらさを予防するためにストレッチが重要です。

  • ストレッチの方法
    自分で行える方は自分で実施し、自分ではなかなか実施するのが難しい方はご家族や介助者の方にやってもらうと良いでしょう。
    ストレッチの強さは「痛すぎず、気持ちいいと思えるくらいの強さ」で行います。

アキレス腱・ハムストリングスのストレッチ

  1. ストレッチされる人がベッドに寝ころびます
  2. ケアをする人は伸ばしたい足を持ち上げます。この時に膝が曲がらないように膝を押さえましょう

手指筋のストレッチ①

  1. ストレッチする腕の肘を伸ばし、手のひらが外・指先が下に向く様に持ちます
  2. 指全体を持って手首を下に返すように伸ばします
手指筋のストレッチ②

  1. ストレッチする腕の肘を伸ばし、手のひらが胸・指先が下に向く様に持ちます
  2. 指の付け根をを持ち、胸の方に近づける様に曲げます

②運動療法

筋力低下に対し、過度な筋力トレーニングは禁物ですが、日常生活で全く動かなければ良いとうわけではありません。遠位型ミオパチーでは遠位から筋力低下が進行していきますが、膝を伸ばす筋肉(大腿四頭筋)など比較的進行しても筋力が保たれる筋肉も存在します。そのため、過度に動かないことによって生じる筋力低下(廃用性筋萎縮)を予防することは可能であり、現在ある筋力を維持するのに運動療法を実施することは良いとされています。ただ、運動する際に過負荷に気をつける必要があり、次の日に筋肉痛・局所的な筋疲労感が残らない程度の負荷を目安に運動を継続することが重要です。

  • 運動療法例:自重(錘を用いず、自分の体重のみの負荷)での筋力トレーニング、散歩やエルゴメーターなどの有酸素運動

③ロボットリハビリテーションロボットリハビリテーション

近年リハビリテーション分野でもロボットをリハビリテーションの手段として活用し、様々なロボットが開発されています。
その中でも神経・筋疾患患者の歩行運動療法として有効性が検証され、2016年から保険診療で利用できるようになったHAL®(Hybrid Assistive Limb®)医療用下肢タイプは歩行訓練の手段として用いられています。

④装具や福祉用具などを用いて安全な生活を支援する

進行性の病気であるため、その時々の身体機能に合わせた装具や福祉用具を導入することもリハビリテーションの重要な役割です。
初発症状の歩きづらさや転倒予防に対する装具・歩行補助具の導入や手先の動かしづらさに対する自助具の導入など、その時に必要な装具や福祉用具を導入する必要があります。始めは使用することに対し、抵抗感を感じる方も少なくありませんが、装具や福祉用具を導入することで安全に生活を送れることもとても大事なことです。

日常生活の注意点

病気の進行によって疲れやすくなり、人の助けが必要となってきます。その事でベッドにいる時間が長くなると、日常生活の中での運動が不足してしまいます。人体は重力にさからい起きていることで骨や筋肉を維持しています。疲労の程度を確認しながら、活動の範囲を広げていくことが大切です。
また、「移動(歩行・車椅子)」や「立ち上がり・乗り移り動作」の注意点を十分に理解して、ストレスにならない安全で快適な生活を送る工夫することが大切です。

移動(歩行・車椅子)の注意点

日常生活の中の移動手段を「歩行」にするか、または「車椅子」を利用するかは、自信や尊厳、また生活の質に関わるとても大事な問題です。そのため専門スタッフと相談して、それぞれの選択肢のメリットやデメリットを理解して、利用する場所や場面を考慮しながら決めることが大切です。実際に約30%の方が、通勤や屋内など状況に応じて歩行と車椅子を使い分けており、実際の生活の中では車椅子を使用し、リハビリとして歩行を続けている方もいらっしゃいます。

引用: Mori-Yoshimura M, et al. Orphanet J Rare Dis. 2014;9:150.

「歩行」のメリットとしては、大きな道具を必要とせず、段差や狭い場所など、さまざまな場面に柔軟に対応できる点が挙げられます。一方、大きなデメリットとしては、疲労や転倒のリスクがあること、また移動する速度が遅くなる場合がある点が挙げられます。歩行をサポートするために、装具や歩行器、杖などの補助具についても、この後の項目でご紹介いたします。

※「歩行」の動画

「車椅子(簡易電動車椅子)」のメリットは、疲れにくく安全であること、移動速度が速いこと、さらに物を運ぶ際に便利である点が挙げられます。しかし、デメリットとしては、不整地や段差に弱いこと、公共交通機関を利用する際に介助が必要となることが考えられます。また、車椅子の操作に慣れる必要があり、さらに充電やメンテナンスも必要となってきます。

立ち上がり・乗り移り動作の注意点

車椅子を使う機会が増えてくると、トイレやベッド、入浴など、日常生活の中で乗り移りを行う機会が多くなります。安全かつスムーズな乗り移りは、活動範囲を広げるためにも重要です。そのため、ご自身の身体の筋力が強く残っている部分と弱くなっている部分をしっかりと把握し、安全な環境と方法を習得することが大切です。

  • 自身で行う乗り移り動作(立位を経由する方法)
    股関節の筋力が弱く、体幹が過度に前に倒れてしまうと、上半身のバランスが崩れてしまいます。そのため、上半身を起こした状態を保ちながら、強い力が発揮できる(大腿四頭筋)を使って膝を伸ばすことで立ち上がっています。筋力の低下を補うためには、少し高めの椅子や肘置きがあると立ち上がりやすくなります。また、上半身を安定させ、バランスを取るための手掛かりとなる手すりなども有効です。ただし、肩が高く上がらない場合や、指の力が弱く手すりを握れない場合は、手すりをどの位置に設置するかを検討する必要があります。
  • 介助で行う乗り移り動作(立位を経由する方法)
    遠位型ミオパチーの方が立ち上がる際には、それぞれに自分に合った方法やタイミングがあると思います。そのため、一般的な立ち上がり介助を行うと、かえって立ち上がりにくくなる場合があります。まずは、サポートしてくれる介助者にどのようなサポートが安心できるかを話して、介助方法を一緒に相談してみてください。
  1. ※よく見る患者さんの起立方法
    体幹前傾×、四頭筋を使用
  2. ※起立動作の介助方法
    前方に台になり位置して転倒を防ぐ

※「起立」の動画

福祉機器の活用

杖・歩行器

歩行時のふらつきやバランスを崩しやすくなった際に歩行補助具として杖や歩行器を用いります。

  • 杖種類:T字杖、ノルディク杖、ロフストランド杖
    (手指の筋力低下があっても肘受けがあることで使用できる)

T字杖・ノルディック杖・ロフストランド杖

 

  • 歩行器種類:ピックアップ歩行器、サークル型歩行器

装具

歩行中につまずき易くなった、身体が左右に動揺してしまう(動揺性歩行)場合や足先が下に垂れてしまう状態(下垂足)となっている場合には、装具を装着すると安全に歩きやすくなります。

  • 種類:足底板、短下肢装具(アンクルソフト、オルトップ、プラスチック製SLB、カーボン製SLB)

足底板・アンクルソフト・オルトップ・プラスチック製短下肢装具・カーボン製短下肢装具

車椅子

日常的に転倒が多くなった、長距離歩行が困難になったら車椅子の導入を検討する必要があります。特に学業や就労など活動範囲も広いことを考慮し、歩行場面と車椅子使用場面を使い分けるのも良いと思われます。また、病状が進行し、立ち上がりが困難になったら座面を高くすることや立ち上がる際に両足を広げるためフットレストは開閉式、移乗しやすい様にアームレストは跳ね上げ又は高さ調整式にする等色々機能を選択していく必要があり、細い工夫などはリハビリテーションスタッフとよく相談すると良いでしょう。

  • 種類: 手動式車椅子、簡易電動車椅子、姿勢変換目的のティルトリクライニング式本電動車椅子、立ち上がりを補助するリフトタイプの本電動

手動自走車いす・簡易電動車椅子・本電動車椅子

スライディングシート・移乗ボード

ベッドの背上げ機能を利用すると、体が足方向にずれてしまいます。その際に役立つのがスライディングシートです。体とマットレスの間に差し込むことで体を滑らせて移動させます。ベッド上の移動の他、車椅子やポータブルトイレ、ストレッチャーへの乗り移りの際にも利用する場合があります。スライディングシートではなく、ボードの上を滑らすものが移乗ボードです。これらを有効に活用する事で介助者の腰痛予防にも役立ちます。

シートを使用したベッド上での姿勢調整・ボードを使用したベッド→車椅子への移乗

使用のポイント

  • 使用前に環境設定が必要です
    ベッドの高さ(乗り移り先の座面を低くする)
    車椅子の位置(ベッドに対して正面ではなく角度をつける)
    車椅子の肘置きや足置きの取り外し 等
  • 差し込む場所は基本的にシートもボードも体重がかかる場所です
    例)体をベッド上方に移動させる場合
    →スライディングシートを頭から差し込み、肩甲骨にかかるところまで入れましょう
    例)ベッドから車椅子に乗り移りする場合
    →ベッドの高さを車椅子の座面より高く設定し、車椅子側の座骨に移乗ボードを入れましょう。この時、差し込む反対側の座面に体重をかけ臀部を浮かすことで、差し込みやすくなります。
  • スライディングシートや移乗ボードに乗せた体の部位に体重を乗せ移動・乗り移りしましょう
    例)体をベッド上方に移動させる場合
    →可能なら膝を立てて臀部を少し持ち上げるようにしながら上方に滑らせます。
    例)ベッドから車椅子に乗り移りする場合
    →差し込んだ側の座面に体重を移動するように滑らせます。

リフト

  • リフトの種類-天井走行リフト
    住宅改修(移動レールを天井に埋め込むなど)が必要なもので、費用はかかりますが支えの支柱を取り除くことができるので、移動スペースや介護スペースを確保しやすいことが利点です。
    工事を必要としない、据置式もあります。移動レールを支柱で支える構造です。レールが1本の線移動のタイプと、部屋の四隅に支柱があり面移動ができるタイプがあります。

天井走行式リフト・据置式リフト

 

  • リフトの種類-設置式リフト
    ベッドや浴室に取り付け、アームで移動するタイプは、省スペースなのが特徴です。
    設置式リフト

簡易移乗機器

トイレを利用するときに使う方が多いです。立位~半立位をとるため衣服の脱ぎ着が簡単です。床走行式と同じように段差解消が必要です。

その他、病院など広いスペースがある場所で使用される事が多い床走行式リフトがあります。また、リフトにつける吊り具の種類によっても機能や適用が異なるため、選定が必要です。

自助具

障害がある方が、失われた機能を補いさまざまな動作ができるよう工夫された道具のことで、市販されているものも多くあります。代表的なものを紹介します。

  • 食事
    筋力低下によりスプーンを口元まで上げることが困難な場合は軽い素材が好まれます。
    口に近づけたときに角度が合わない場合は、曲げて対応する場合もあります。
    箸は手指の筋力が低下すると、固定しつつ操作することが難しくなりますので、ピンセットタイプの箸が有効です。

チタンスプーン・かるまげスプーン・箸ぞうくん

 

  • 整容
    長柄ブラシを使うと、腕をそれほど上げなくても髪を梳かせます。
    軽い力で操作できる爪切りもあります。

 

  • 更衣
    袖を通したり整えたりするドレッシングエイドや、ボタンのつけ外しをするためのボタンエイド、靴下の着脱を助けるソックスエイドなどがあります。

ドレッシングエイド・ボタンエイド・ソックスエイド

 

  • 調理
    握りやすい包丁、具材を固定するなどの機能により片手で調理できるまな板、蓋を開けるオープナーなどがあります。フードプロセッサーなどの一般的な便利器具や100円ショップの商品、滑り止めなども活用できます。

 

  • その他
    手の届かない所にあるものを掴み取ったりするリーチャーや、錠剤取り出し器など便利な自助具もあります

 

福祉用具申請の方法

以下の方法があります。詳細は厚生労働省のHPをご確認ください。
厚生労働省 福祉用具
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/yogu/index.html

    • 補装具費支給制度
    • 日常生活用具給付事業
    • 身体障害者用物品の非課税扱いについて
    • 補装具装用訓練等支援事業
    • 介護保険における福祉用具、住宅改修

(2024年11月現在)

監修
国立精神・神経医療研究センター病院 身体リハビリテーション部
原 貴敏 先生  勝田 若奈 先生  鈴木 一平 先生  佐々木 俊輔 先生

縁取り空胞を伴う 遠位型ミオパチー(GNEミオパチー)

縁取り空胞を伴う 遠位型ミオパチー(GNEミオパチー)トップ

力が入りにくい、歩きづらいなどといった症状はありませんか?

縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーとはどんな病気ですか?

日常生活の注意点とリハビリについて

患者さんの声(受診のきっかけ、症状・日常生活への影響と対処について)

医療費助成制度と生活支援サービスのご紹介

神経・筋疾患患者登録 Remudyについて

お役立ち情報リンク

詳しく専門的に知りたい方へ

PAGE TOP
  1. HOME
  2. 一般・患者の皆さま
  3. 縁取り空胞を伴う 遠位型ミオパチー(GNEミオパチー)
  4. 日常生活の注意点とリハビリについて