詳しく専門的に知りたい方へ 症状
初発症状
初発症状1)
- 縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(GNEミオパチー)の特徴的な所見として前脛骨筋の筋力低下による鶏歩、歩容異常等が知られています。
- 国内の症例に関して、神経・筋疾患患者登録RemudyのGNEレジストリに基づく調査結果(n=121)によると、最も一般的な初発症状は、「歩くのが遅い/歩きにくい」(54%) 、次いで「動揺性歩行」でした。
- また、GNEミオパチーの症状として以前から注目されていた前脛骨筋に関する症状である「つま先が上がりにくい」(鶏歩)は3位に挙がっています。
- 病変部位を絞り込みにくく、「歩くのが遅い」「動揺性歩行」といった患者が表現しやすい大まかな主訴が多いことから、初期症状からGNEミオパチーを疑うことが難しい場合も多くあります。
- さらに、GNEミオパチーは「遠位型」ミオパチーとして知られているにもかかわらず、一部の患者では初発症状として首や大腿にも違和感を持っている例もあることから、初期には多彩な表現型をとりうると考えられます。
1)Mori-Yoshimura M, et al. Orphanet Journal of Rare Disease. 2014 Oct 11;9:150.
この疾患に特徴的な歩き方/立ち上がり方については、下の動画をご参照ください。
歩き方・立ち上がり方のイメージ
患者さんの特徴的な歩き方、立ち上がり方のイメージです。
ご協力:国立精神・神経医療研究センター病院 身体リハビリテーション部
歩行(前)の動画
歩行(横)の動画
起立の動画
歩行障害のチェックポイント
- 歩行障害はどのような時間的経過で進行していくのでしょうか。
- GNEミオパチーでは、若年発症であるほど早期に歩行不能になる傾向があることが知られています。疾患発症から歩行不能までの平均期間は、 10代、20代、30代でそれぞれ9、15、27年という結果でした1)。
- ただし、発症10年程度で歩行不能になることもある一方、 60歳代でも歩行可能な患者が存在するなど個人差が大きいため、予後予測は一般に困難です。
発症年齢(年代)における歩行不能までの期間(平均)1)
10歳代 | 9年 |
---|---|
20歳代 | 15年 |
30歳代 | 27年 |
1)Yoshioka W, et al. J Neurol. 2024 Jul;271(7):4453-4461.
GNEミオパチーのその他の合併症
- GNE遺伝子は、シアル酸代謝経路のGNE/MNKをコードするため、GNE遺伝子の異常があると、骨格筋に限らず様々な臓器でシアル酸合成低下による機能障害を呈すると考えられています。
- シアル酸の機能は未解明の部分も多くありますが、筋収縮によって出現する reactive oxygen species (ROS)を除去する働きがあり、また細胞膜の最外部にあることから細胞間相互作用等の様々な生物学的現象に関与していると考えられています。
呼吸機能障害
GNEミオパチーの呼吸機能に関する研究結果をご紹介します。
歩行機能と呼吸機能障害
- 国内でGNEミオパチーと診断された患者220例を10年間追跡した研究において、呼吸機能の指標である※%VC(% Vital Capacity:%肺活量)を観察したところ、歩行不能例では歩行可能例と比較し%VCが有意に低い1)という報告があります。
- 本邦では重症例に呼吸障害を呈する例が見られる2)ため、呼吸不全のモニタリングが必要ですが、海外では強調されておらず、人種による重症度の差があることが窺えます。
歩行可能又は歩行不能例における%VCの比較1)
歩行可能例では歩行可能例と比較し%VCは有意に低値を示した1)
1)Yoshioka W, et al. J Neurol. 2024 Jul;271(7):4453-4461.
2)Mori-Yoshimura M, et al. Neuromuscul Disord. 2013; 23: 84-88.
人工呼吸器の使用について
- GNEミオパチーと診断された 220例(うち216例は遺伝学的診断で確定診断)を10年間追跡した調査では、人工呼吸器を使用している割合は3.2%(7/ 220例)1)でした。
人工呼吸器の使用割合
1)Yoshioka W, et al. J Neurol. 2024 Jul;271(7):4453-4461.
睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群について、Remudyの調査(n=125)では、GNEミオパチー患者の10.4%に睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診断経験あり(男性:16.3%(8/49人)、女性:6.6%(5/76人)) 、5.6%で持続陽圧呼吸療法(CPAP)の使用経験有り1)という報告があります。
約10%にSASの診断、約5%でCPAP使用
1)Yoshioka W, et al. Clin Neurol Neurosurg 2022 Jan;212:107057.
血小板減少症
神経・筋疾患患者登録Remudyでの調査では血小板減少症が5/123例(4.1%[1.4-9.4])1)で指摘されたという報告があります(図1)。血小板膜はシアル酸に富んでいますので、低シアリル化は血小板機能の低下により血小板寿命を減少させ、血小板減少症をもたらすことがわかっており、血小板減少症がGNE ミオパチーの病態と関連している可能性が考えられています。また、2004~2007 年のデータベース解析により日本人の約2万5000人が特発性血小板減少性紫斑病に罹患しているという報告2)があることから、GNEミオパチー患者の血小板減少症の頻度は一般人口と比較して非常に高いことが示唆されます。また、GNEミオパチー患者の半数以上でPA-IgG(血小板関連IgG)抗体が高値であるという報告もあります3)。
図1 GNEミオパチー患者における特発性血小板減少症の発現頻度(%[95%CI]) 1)
1)Yoshioka, W, et al. Clinical Neurology and Neurosurgery, 2022 Jan;212:107057.
2)Y. Kurata, K. et al. J Hematol. 2011 Mar;93(3):329-335.
3) Mori-Yoshimura M, et al. Muscle Nerve. 2022 Mar;65(3):284-290.
妊娠や出産に関して
妊娠中や出産後の症状の変化について
- 国内の発症後の出産では、出産後 1 年での病気の進行が妊娠前と比較し違いを感じなかった人は 80.9% (21 件中 17 件、95%CI: 58.1~94.6%) でした (欠落データのため 21 件中 19 件を分析) 1)。
- 海外の妊娠に関する症例報告として、妊娠中に歩行困難などの症状悪化をきっかけに診断に至った症例2)、 妊娠中に足の背屈が困難になったことがGNEミオパチーの症状の始まりであった症例3)の報告があります。いずれの報告においても、著者らは妊娠中に胎児や胎盤でシアル酸が多量に消費されることが、症状顕在化や悪化の原因ではないかと推測しています。
発症後出産における出産前後の病状進行の速さについて1)
1)Yoshioka W , et al. Orphanet J Rare Dis. 2020 Sep 11;15(1):245.
2) Liewluck T, et al. Muscle Nerve. 2006 Dec;34(6):775-8.
3) Grandis M, et al. Neurol Sci. 2010 Jun;31(3):377-80.
GNEミオパチーにおける妊娠中の合併症
GNEミオパチー患者の発病後妊娠における妊娠中の合併症(%[95%CI])
- GNEミオパチー患者の切迫流産の割合は 26.9%であり、一般妊娠の11.9%と比較し有意に高いという報告があります。産科医は切迫流産リスクに留意する必要があります。
- 切迫流産の他には一般の妊婦と比較し高頻度の重篤な妊娠中の合併症の発現はありませんでした。
1)Yoshioka W , et al. Orphanet J Rare Dis. 2020 Sep 11;15(1):245.
GNEミオパチーにおける妊娠中の合併症
GNEミオパチー患者の発病後妊娠における妊娠中の合併症(% [95%CI] )GNEミオパチー発症後患者と一般人口を比較したところ妊娠転帰に有意な差は見られなかった1)
- 発症後の妊娠における早期流産、人工妊娠中絶、出産の発生率は、それぞれ 17.9%(5 /28 件)、0.0%(0 /28 件)、82.1%(23/28 件 )でした。
- 発症後妊娠における早産(36週6日以前の出産)、正期産(37週0日から41週0日までの出産)、および過期産(42週0日以降の出産)の発生率は、それぞれ8.7%(2/23)、91.3%(21/23)、および 0.0%(0/23)でした。後期流産や死産はありませんでした。これらの発生率は、一般妊娠の発生率と有意差は見られませんでした。
- また、出産後の合併症( マタニティブルー、産後うつ病、深部静脈血栓症、子宮内感染、乳腺炎、子宮脱) の発生率についても、一般妊娠と比較して有意差は認められませんでした。
1)Yoshioka W, et al. Orphanet J Rare Dis. 2020 Sep 11;15(1):245.
GNEミオパチー患者の発症後の妊娠分娩転帰(国内)
- GNEミオパチー発症後出産における出生時の平均体重と身長はそれぞれ 2962.0 ± 328.6 g (n = 26) 、48.8 ± 1.7 cm (n = 25) であり、発症の有無により差はありませんでした。
- また、新生児仮死、呼吸器疾患、心臓疾患、発作等の重篤な合併症は認められませんでした。
1)Yoshioka W , et al. Orphanet J Rare Dis. 2020 Sep 11;15(1):245.
東北大学大学院医学系研究科 神経内科学分野 教授 青木正志 先生
国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第一部 部長 西野一三 先生
大阪大学大学院 医学系研究科 保健学専攻 生体病態情報科学講座 臨床神経生理学 教授 髙橋正紀 先生
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