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診断の流れ

診断の流れ図

  1. 病態診断
    まず、患者から病歴や家族歴を聴取し、病態や症状の進行について確認します。
  2. 病巣診断
    次に、神経学的な診察により、病巣が神経か筋肉なのかを診断します。
  3. 臨床診断
    さらに、神経生理学的検査として、筋電図や画像評価により遠位型/肢体型/顔面肩甲上腕型等の臨床診断を行います。
    「画像からみたGNEミオパチー」
  4. 病理診断
    続いて、筋生検による病理診断を行います。
    「病理からみたGNEミオパチー」
  5. 遺伝学的診断
    最終的に、遺伝学的診断により、確定診断を行います。

縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(GNEミオパチー)の診断基準

診断に有用な特徴

A.臨床的特徴(a かつb を満たす)

a. 常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)又は孤発性
b. 進行性の筋力低下及び筋萎縮:前脛骨筋や大腿屈筋群、大内転筋が侵されるが、大腿四頭筋は多くは保たれる。

(以下は参考所見)

  • 発症年齢は 15 歳から40 歳までが多い。
  • 5~20 年の経過で歩行不能となることが多い。
  • 血清CK 値は正常から軽度高値(1,500IU/L 以下)
  • 針筋電図で筋原性変化(ただし、fibrillation potential や高振幅MUP が認められることがある。)
  • 「a. 常染色体潜性遺伝又は孤発性」では、上の世代に症状はなく兄弟に類症がある場合に限らず、家系内に家族歴がなくても否定できないことを示しています。
  • 「b. 進行性の筋力低下及び筋萎縮:前脛骨筋や大腿屈筋群、大内転筋が侵されるが、大腿四頭筋は多くは保たれる」のとおり、前脛骨筋が障害され、大腿四頭筋が保たれていることや、血清CK値が筋ジストロフィー等の他の筋疾患と比較し、上昇が軽度であることも特徴的です。

B.筋生検所見(a を満たす)
 a. 縁取り空胞を伴う筋線維

(以下は参考所見)

  • 通常強い炎症反応を伴わない。
  • 筋線維内のβ-アミロイド沈着
  • 筋線維内のユビキチン陽性封入体
  • 筋線維内のp62 陽性凝集体
  • 筋線維内のリン酸化タウ
  • (電子顕微鏡にて)核又は細胞質内の 15~20nm のフィラメント状封入体(tubulofilamentous inclusions)の存在

C.遺伝学的検査
 GNE 遺伝子のホモ接合型又は複合へテロ接合型変異

Bの筋生検所見としては縁取り空胞を伴う筋線維が重要な指標であり、Cの遺伝学的検査ではGNE遺伝子の病的バリアントの有無を確認します。

除外すべき疾患

除外すべき疾患

診断のカテゴリー

Definite:A又はBの少なくとも一方を満たし、かつC を満たすもの。
Probable:A+Bを満たすもの。

* DMRV 又はNonaka Myopathy は国際的にGNE myopathy と統一呼称する動きがある(Huizing et al. Neuromuscul Disord 2014)が、本診断基準中には現在通用されている呼称と併記した。

参考:難病情報センターHP  30 遠位型ミオパチー 概要・診断基準等

Definite だけでなく、Probable(Cが不明あるいは陰性)も治療対象になります。

GNEミオパチーの確定診断と遺伝学的検査

  • GNEミオパチーはGNE遺伝子のミスセンス変異によりシアル酸合成能が低下することで発症し、常染色体潜性(劣性)遺伝形式を取ります。
  • 希少難治性筋疾患に関する調査研究班により策定された診断基準では、遺伝学的検査について下記の通り定められており、遺伝学的検査により確定診断となります。

C.遺伝学的検査
GNE遺伝子のホモ接合型又は複合へテロ接合型変異

参考:難病情報センターHP  30 遠位型ミオパチー 概要・診断基準等

日本人における遺伝

  • 日本人で多い変異としてp.V603L、p.D207Vのミスセンス変異が知られています1)- 5)
  • GNE ミオパチーの遺伝子変異データベース(https://databases.lovd.nl/shared/genes/GNE)によれば、2018 年現在で 400 の変異が報告されています。本邦ではこれまで 87 種類の変異が認められていますが、9 割以上がミスセンス変異、エクソン欠失・重複変異が 3%、イントロン変異およびナンセンス変異は 1%程度です6)

1)Arai A, et, al. Ann Neurol. 2002;52:516–9.
2)Nishino I, et, al. Neurology. 2002;59:1689–93.
3)Cho A, et, al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2014;85:914–7.
4)Zhu W, et, al. J Hum Genet. 2017;62:159–66.
5)GeneReviews® Carrillo N, Malicdan MC, Huizing M. GNE myopathy Last Update: April 9, 2020.
6)厚⽣労働省 難治性疾患政策研究事業 希少難治性筋疾患に関する調査研究班GNEミオパチー診療の手引き
(日本神経学会理事会承認日 2020年1月31日)

GNEミオパチーの遺伝学的検査の現状

  • 遺伝性筋疾患の確定診断は、原因遺伝子変異の同定が重要になります。国立精神・神経医療研究センターメディカル・ゲノムセンターでは、筋生検を含めた網羅的なスクリーニングが実施されており、現在までも非常に多くの症例が解析されてきました。
  • 国立精神・神経医療研究センターや、かずさ遺伝子検査室ではGNEミオパチーについて筋生検なしでも検査が可能な場合があり、5~10年前と比較し遺伝学的検査の敷居が低くなっています。
  • しかし、遺伝学的検査に際しては、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングが必要な場面も想定しておく必要があります。家系内の一人の確定診断が他の未発症者を示唆したり、軽微な症状であっても確定診断につながることがあるためです。
  • 「縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー」の遺伝学的検査は保険診療の適応となっており、遺伝カウンセリングの一部も含めて保険診療で行われます。

国立精神・神経医療研究センター 疾患研究第一部 遺伝性筋疾患の遺伝学的解析
かずさ遺伝子検査室

GNEミオパチーの臨床症状の変化と病的バリアントの関係

  • GNEミオパチーでは、遺伝子変異ごとに重症度や進行速度が異なることが知られています。p.V603L のホモ接合体は発症が早く、相対的に重症であるのに対し、p.V603L/p.D207V 複合へテロ変異は相対的に軽症になる傾向があります。

変異型別疾患発症年齢及び歩行不能までの期間1)歩行不能までの期間※p.D207V/p.V603L複合ヘテロ接合体ではその半数以上が発症後40年まで
歩行能力を失わないと推定されるため、対応するデータなし。

1) Yoshioka W, et al. J Neurol. 2024 Jul;271(7):4453-4461 より作成

p.V603Lホモ接合体はp.D207V/p.V603L複合ヘテロ接合体と比較し
発症及び歩行障害の経過が有意に早い

 

  • p.V603Lホモ接合体を持つ患者は平均 22.6 ± 6.0歳、p.D207V/p.V603L複合ヘテロ接合体では 37.1 ± 9.5歳、その他の患者では 27.5 ± 8.6歳であり、p.V603Lホモ接合体はp.D207V/p.V603L複合ヘテロ接合体と比較して有意に若いという報告があります(p < 0.000001)。
  • また、歩行不能に至る年齢の平均値は、p.V603Lホモ接合体では 35歳(発症後10年)、p.D207V/p.V603L複合ヘテロ接合体は発症後40年まで歩行能力を失わないと推定されておりデータは存在せず、その他の患者では 57歳(発症後 18年)でした。

症例で見る診断例 発症から診断~退院後の経過

診断から退院までの経過項目とフロー図

上記の例は、一人の患者さんの経過を紹介したものであり、すべての患者さんに当てはまるわけではありません。
進行の速度や症状の現れ方には個人差があります。

早期診断、早期介入で進行を遅らせることが重要

本症例のように、診断には時間を要することがある一方、握力低下等の症状は数年でも悪化することがあります。早期診断・早期介入により、進行を遅らせることが重要です。また、リスキリング等で就労も可能な疾患であり、社会で活躍されている患者さんも実際多くいらっしゃいます。

リスキリング:新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること

監修
東北大学大学院医学系研究科 神経内科学分野 教授  青木正志 先生
国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第一部 部長 西野一三 先生
大阪大学大学院 医学系研究科 保健学専攻 生体病態情報科学講座 臨床神経生理学 教授 髙橋正紀 先生

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