血管腫・脈管奇形 脈管・リンパ管とその病気

1. 脈管異常(血管腫・脈管奇形)とは?

私たちの全身に広がる血管やリンパ管などに何らかの異常(異常な増殖、形態の異常など)が生じる病気を総称して「脈管異常」といいます。
この病気は、生まれつき、又は子どもの時に発症することがほとんどです。
体中の色々な場所に発生し、発生した場所や大きさによって症状は様々です。見た目の問題だけでなく、周りの臓器に大きな影響が出ることもありますが、治療を必要としないまま、症状がなくなる場合もあります。
脈管異常は「血管腫」と「脈管奇形」に大別され、「脈管奇形」には血管奇形とリンパ管奇形が含まれます。

2. 血管腫と脈管奇形の患者はどのくらいいる?

血管腫・脈管奇形は国内推計 約11万人、そのうちリンパ管奇形病名の実患者数は約8,000人とされています。
(1年期間有病率を元に推計した血管腫・血管奇形病名/リンパ管奇形病名の実患者数)

参考:難治性疾患等克服研究事業(難治性疾患克服研究事業)難治性血管腫・血管奇形についての調査研究班 患者実態調査および治療法の研究
平成25年度総括・分担研究報告書

3. 脈管・血管・リンパ管とは?


「脈管」とは「血管」と「リンパ管」からなります。
血液が流れる管を「血管」といい、血管には動脈と静脈、毛細血管があります。
毛細血管からしみ出した血漿である「リンパ液」が流れる管を「リンパ管」と呼びます。

血管 リンパ管
流れる液体 血液 リンパ液(リンパ、組織液)
主な機能
  • 酸素や二酸化酸素を運ぶ
  • 老廃物を運び出す
  • 病原体などから体を守る
  • 傷口をふさいで止血する
  • タンパク質、有害な生物(ウィルスなど)、老廃物をろ過
  • 消化管からの脂肪吸収と運搬の中心機構
  • 免疫反応の中枢
流れ 心臓から出た血液が全身をめぐり、
再び心臓に戻ってくる時間は約30秒。
流れはゆっくり、一定でなく、つま先から
ゴールとなる鎖骨まで約1日かかって流れる。

「血管」を上水道とすると、「リンパ管」は下水道及び上水道に例えられます。

4. 血管腫と脈管奇形の違いは?

脈管異常には様々な疾患がありますが、大きく、血管腫と脈管奇形に分類できます。
血管腫は、腫瘍の細胞が短期間(多くは数カ月から1年程度)の間に大きくなったり、小さくなったりする傾向があります。
一方、脈管奇形は腫瘍と異なり、大きさはほとんど変わりませんが、消えることはありません。長期的にみると、体の成長とともに増大するとされており、思春期や妊娠、また感染、外傷などをきっかけに悪化することもあります。

図:難治性血管腫・血管奇形 薬物療法研究班 情報サイト(2025年10月現在)より転載

5. 疾患の見分け方は?

簡易的な見分け方を以下の図表でご紹介します。外観上と触診の特徴(見た目、硬さ、場所など)、発症した時期(生まれてすぐか、その後からか)、経過(大きくなってきたか、変わらないか)などから判断されます。

簡易的な見分け方の手順

※こちらの手順のみで判断できない場合もあります
難治性血管腫・血管奇形 薬物療法研究班 情報サイト(2025年10月現在)より転載

典型的な病変であれば、診断は難しくありません。ただし、非常に似ている病気もありますし、赤ちゃんの時期には、症状がはっきりとせず、まだ見極めが難しい場合もあります。そうした場合は、経過をみるとはっきりすることもありますが、それでもわからない場合もあります。
専門的には、国際的な分類であるISSVA分類が用いられています。

いずれにしても、困っている症状がある場合は、早急な診断が必要となることもありますので、主治医の先生や専門医に相談をしてみてください。

6. この病気の原因は?

TORなどの、細胞増殖や血管・リンパ管を作ることに関係する遺伝子の変異が原因の一つと報告されています

近年、血管腫・脈管奇形(血管奇形)の原因として、血管・リンパ管形成に関わる分子の遺伝子変異が報告されています(乳児血管腫などの一部疾患では、原因となる遺伝子が明らかになってません)。

遺伝子の変異により、血管やリンパ管になる細胞を作るための信号が正常通りに働かなくなることがあります。細胞を分裂・増殖させる体内の働きが必要以上に強まることで、血管やリンパ管が作られ過ぎたり、通常とは異なる形になったりすることで、病気の症状が現れることがあります。

mTORエムトール(mechanistic target of rapamycin )

例 mTORに関わる遺伝子が異常の場合

mTORの働きを強めたり、抑制する遺伝子の異常があると、mTORが必要以上に活性化し、
結果として細胞が異常に分裂・増殖・成長したり、血管・リンパ管が作られ過ぎることがあります。

7. 遺伝子変異が起こると、ヒトの体に何が起こるの?

遺伝子変異はDNAの配列が変化することで、下の図のような流れが起こり、体に様々な影響を与えます。影響の程度は変異の種類や場所によって異なります。

8. 遺伝する疾患なの?

ほどんどの場合は遺伝しません

遺伝子変異がこの病気の原因である、と聞くと、親から子に遺伝するとイメージされる方も多いと思いますが、必ずしも遺伝するわけではありません。

遺伝性の血管奇形は一部存在しますが比較的稀であり、血管奇形の大部分は孤発性(親から子に遺伝したのではなく、突然変異が起こり、子のみが発症するもの)とされています。

2013年に行われた国内実態調査の結果では、血管奇形関連の家族歴が認められた症例は1%のみでした1)

※家族皮膚粘膜静脈奇形、グロムス静脈奇形、パークス ウェーバー症候群、オスラー病(遺伝性出血性末梢血管拡張症)など
1)難治性血管腫・血管奇形についての調査研究班 患者実態調査および治療法の研究 平成 25 年度総括・分担研究報告書

 

なぜ、遺伝する場合と遺伝しない場合があるのでしょうか。

遺伝性の疾患とは親から子に遺伝する疾患を言いますが、生殖細胞以外の遺伝子の異常は、親から子に受け継がれるわけではありません。

遺伝子の変異は、体細胞に変異が起きる場合生殖細胞に変異が起きる場合があります。

左側の例は、体細胞に変異が起きる場合のイメージです。

①は受精後、生まれる前の細胞の段階で、既に遺伝子変異が起きた例です。②は生まれた後に遺伝子の変異が起こった例です。

いずれの場合も、体内のすべての細胞ではなく一部にのみ発生する変異であり、生殖細胞は正常なので、親から子に受け継がれません。この変異は、環境要因(紫外線、たばこなど)などによって起こります。

一方、右側の例生殖細胞に変異が起きる場合のイメージです。親の生殖細胞である卵子や精子のどちらかに変異がある場合、受精卵の細胞全てに変異があります。ここから細胞分裂・成長を繰り返して生まれた子どもは、全身の細胞に変異を持つことになり、生殖細胞にも半分変異を持つことになります。したがって、親から子に遺伝する可能性があります。

※1生殖細胞:精子や卵子、又はそれの基となる細胞。生物が次世代に遺伝子情報を伝える働きがある。
※2体細胞:筋肉細胞や内臓細胞などの体を構成する、生殖細胞を除く細胞。遺伝的な機能を持たない。

9. どんな検査で診断される?

血管腫・脈管奇形には複数のタイプの疾患があり、正確な診断を受けることにより、適切な治療を受けることに繋がります。

① 診察

まず、先生の診察で確認される重要な点は「外観の特徴、触診の特徴」、「発症時期(その病変がいつ発症したか)」です。
また、その後に増大したか、変化が無いかなどの「経過」や追加の所見などで見分けていきます。典型的な病状・体の表面のみに症状がある場合は、診察のみで判断がつく場合もあります。

② 画像診断

血管腫・脈管奇形を正確に診断するために、画像検査をよく行います。“嚢胞性病変かどうか” 、“内部に血流があるか” 、“血流の状態(流速)”などを見極めることが重要です。よく使用する検査は、超音波検査(エコー)、MRI検査です。診断能力が高いこと、また放射線の被曝も無く患者さんに安全に使用できることが理由です。また骨は単純X線検査(レントゲン)、CT検査を使用します。

※嚢胞(のうほう):膜のような物で形作られた袋状の病変で、内容物として、液体、気体、半個体物質などを含む

③ 病理診断

診察所見や画像診断で判断できない場合に、切除した腫瘍などの組織を病理の専門家が顕微鏡で観察する、病理診断を行う場合があります。病理組織標本全体を観察し、血管を構成する細胞そのものが増殖している場合は「腫瘍」、血管の形状や分布などの形態異常がある場合は「奇形」と分類されます。

参考:難治性血管腫・血管奇形 薬物療法研究班 情報サイト(2025年10月現在)
血管腫・脈管奇形・血管奇形・リンパ管奇形・リンパ管腫症診療ガイドライン2022

10. どの診療科で診てもらえますか?

小児期の発症が多いので、まず小児科が入り口となることが多いです。「小児科」や「形成外科」を受診した後に、症状がある部位や治療法により様々な診療科へ紹介されることが一般的です。

成人の患者さんの場合は、内科をはじめ、小児と同様に症状や治療法によって様々な診療科が担当となっています。

【例】

  • お子さんで外科的な治療(手術など)を行う場合→小児外科
  • 骨に病気がある場合→整形外科
  • 肺や乳び胸などで手術が必要な場合→小児外科や胸部外科
  • 手術やレーザー治療を受ける場合→形成外科
  • MRIやCTなどの検査や、硬化療法を受ける場合→放射線科

日本血管腫血管奇形学会のHPでは、専門的な診療を行なっている全国の施設一覧が掲載されています

「血管腫血管奇形診療施設全国一覧」では、都道府県、施設名、電話番号、診療科、担当医師名、対応疾患、実施されている診断・治療等を調べることができます。ただし、ここに掲載されている施設が全てはありません。

初めて受診されるときは、予約や紹介状がないと受診できない場合が多いため、前もって紹介先の施設に予約方法などをお問い合わせください

11. 治療法は?

外科手術、硬化療法、放射線治療、薬物療法をはじめとして様々な治療法があります

病気の種類、病変の部位や大きさなど個々の患者さんの状態にあわせた治療を行います。自然に症状がなくなる病気の場合や、日常生活に支障が出ないケースでは積極的な治療を行わず、経過観察となる場合もあります。また、いくつかの治療法を組み合わせて行うこともあります。

主治医の先生とよく相談して、患者さんご本人にとって最良の方法を検討しながら治療を進めるとよいでしょう。

● 外科手術

病変部位を切除して縫い合わせたり、皮膚移植などで覆う治療です。病変部位が局所的な場合は病変を取り除くことが可能で根治の可能性もありますが、傷跡が残ることや患者さんの負担も大きいため、他の治療法と比べてメリットが多いと考えらる場合に選択されます。

● 硬化療法・塞栓術

硬化療法と塞栓術は、どちらも血管内治療ですが、対象となる疾患や手法、使用する薬剤・器具に違いがあります。

硬化療法は、主にリンパ管奇形や静脈奇形の患者さんに対して行われます。病変部に硬化剤と呼ばれる血管を潰す働きのある薬剤を注入することで、異常な血管やリンパ管を壊して小さくします。
塞栓術は、主に動静脈奇形の患者さんに対して行われます。血管にカテーテルを挿入し、塞栓物質(薬剤、コイルなど)を注入し血流を遮断します。

針を刺して病変内に薬剤を注入し、異常な血管を潰すことを目指す

● 薬物療法

症状(痛みなど)の緩和、病変の縮小に寄与するとされる治療薬や、痛みや血栓の形成を抑えるなどの対症療法としての飲み薬があります。

分子標的治療薬:mTOR阻害剤

血管腫・脈管奇形が起こる原因の1つとして、細胞を分裂させたり増殖させたりする体内のはたらきが必要以上に強まって、異常が起こると考えられています。 mTOR阻害剤はこのはたらきの一部を担うmTORにブレーキ(阻害)をかけ、過剰な細胞の分裂や増殖を抑えるためのお薬です。

β遮断薬:乳児血管腫治療剤

乳児血管腫(いちご状血管腫)の第1選択の治療となっています。血管腫の増殖を抑え、小さくなるのを早くするはたらきにより、乳児血管腫を治療します。

漢方薬

一部の漢方薬で症状を緩和する効果があるという報告があります。

その他対症療法:止血剤や痛み止め・血栓の予防(血液凝固阻止剤、解熱鎮痛消炎剤など)

静脈奇形などでは、症状として痛みがあり、病変が大きい場合は血栓を引き起こすことがあります。血栓が肺に流れ込むと、肺塞栓症を引き起こす可能性があるため、血栓を予防することは重要です。血栓の形成や痛みに対応するため、状態により血液の固まりを防ぐ薬や痛みを抑える薬が使われることがあります。

どうして血栓が出来やすいのですか?

静脈奇形やリンパ管奇形などでは、病変の中にある血管が複雑に蛇行しがちです。そのため、血液の流れも一定ではなく、滞ったり、乱れたり、よどんだりして、詰まりやすくなっています。また、血管の障害や炎症が起こることで、内皮細胞が活性化し、血液が固まりやすい状態となります。これらにより、血栓が出来やすくなります。

※静脈石:静脈内の血栓が石灰化したもの
難治性血管腫・血管奇形 薬物療法研究班 情報サイト(2025年10月現在)より転載

● レーザー治療

レーザーは、主に毛細血管奇形や乳児血管腫に行われます。重篤な合併症が少なく、特に1歳前のレーザー治療は有効性が高い可能性があるとされていますが、病変が深部の場合にはレーザーが届きにくく効果が乏しいといわれています。また、部位によっても効果の差が見られ、顔面、頸部ではその他の部位に比べて有用性が高い一方、四肢では色素沈着などの合併症をきたしやすい可能性があります。

● 弾性ストッキングなどによる圧迫療法

圧迫療法とは、病変部位に圧力をかけ、血液やリンパ液が溜まらないようにすることにより、痛みの緩和、血栓・静脈石形成の予防、凝固障害の減弱などを目的とした治療法です。圧迫に用いるのは、弾性ストッキングや弾性包帯などがあります。圧迫の強さや圧迫方法などが様々です。また、一部の疾患では圧迫により逆に痛みを増悪させる場合があるので、自己判断せず、主治医に相談してからご自身にあったものを適切に使用することが大切です。

● リハビリテーション

病変が関節周辺や筋肉に影響を及ぼした場合は、可動域訓練や筋力トレーニングによって日常生活動作をスムーズにするため、整形外科診療や理学療法が必要になることがあります。

監修
岐阜大学 医学部附属病院 小児科 臨床准教授 小関道夫先生

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